TOC
Migrating to open-source technologies | CERN
CERNの本気
欧州原子核研究機構(CERN)は、スイスとフランスの国境にある研究所です。
スパロボとかロボットアニメとかでレールガンや電磁レールガンという物体を電磁誘導で加速して打ち出す兵器が登場しますが、これらフィクションの世界に登場する兵器の動作原理であるLHCの実験炉を持つ、世界最大規模の研究所です。
実際にはそれ以外にもヒッグス粒子を発見するなど、物理学での権威とでもいうべき研究所です。1
そんなCERNが特設サイトを作ってまで取り組んでいる取り組みがあります。MAlt(Microsoft ALTernatives/Microsoft代替)です。
CERNがMicrosoftの代替を探すことにしたいきさつ
Microsoftといえば、WindowsとOfficeを販売するイメージが強く、近年ではクラウドサービスAzureも大きな収益源になっていますがそれでもWindowsとOffice(365含む)が一般向けソフトウェアとしては単価が高く、主力製品であることは一目瞭然であることは想像に難くありません。
Microsoftの特定の機関向けの割引ライセンス
一般にWindowsやOfficeは店舗やオンライン販売での価格ではない、様々な割引販売の形態があります。アカデミックライセンスや企業向けのボリュームライセンスが有名ですが、学校(教育機関)やNGO、NPO向けの割引ライセンスが存在します。学校向けの無償Office 365 Educationはこちら。
無償の学校・学生用Microsoft Office 365 | Microsoft Education
また、NPOやNGOといった非営利団体については活動内容によってはこれらの優遇ライセンスを適用できる場合があります。日本では認定NPO法人 日本NPOセンターが運営するTechSoup JapanがMicrosoftを含む高額なソフトウェアの優遇ライセンス販売をしているので、適用できそうであれば活用するに越したことはありません。
ITの力をNPOの力に! ~ソフトウェア/クラウドサービス/パソコン・タブレット/お役立ちツールを特別価格で活用しませんか | TechSoup Japan
CERNもこのMicrosoftの割引ライセンス(academic institution)を利用していましたが、Microsoftからユーザー数ベースの契約に切り替えるよう要求された結果、ライセンス料が10倍以上になってしまい、継続して支払うことが困難になったとのこと。
そこで、Microsoft他の製品を使わずに以下の目標を達成するためにMAltを立ち上げました。
- 全カテゴリーのCERN関係者に同じサービスを提供する
- リスクと依存性低減のためにベンダーロックインを排除する
- データを変わらず保持する
- よく使われるユースケースに対処する
CERNが選んだ代替案
https://malt.web.cern.ch/malt/global/malt-table/
ステータスはDesign、Evaluation、Prototype、Pilot、Production
サービスと代替プロダクト、状況が一覧になっている表が公開されていて、ステータスとして5種類書かれています。
- Design(薄い水色) CERNで設計中
- Evaluation(水色) 用途に適うか評価
- Prototype(薄い緑) 導入初期
- Pilot(黄緑) 試験運用
- Production(濃い緑) 実運用中
恐らくこの順で下に行くほど実運用になっているはずです。以下、(列を調整した)表を掲載します。
| サービス | 代替プロダクト | 概要 | ステータス |
|---|---|---|---|
| アカウント管理 | Account Management | CERN実装のアカウント管理 | 設計中 |
| リソース管理 | Authorization Service | CERN実装のリソース管理 | 試験運用 |
| Kerberos認証 | FreeIPA | Kerberosサービス | 導入初期 |
| LDAP | FreeIPA | LDAP389ベースのLDAPサーバー | 導入初期 |
| SSO (SAML/OAuth) | KeyCloak | SSO (SAML/OAuth/OpenID 接続) | 試験運用 |
| 認可機関 | EJBCA, TCS, Comodo… | Certification Authority (Grid, CERN, IOTA…) | 導入初期 |
| 認可 | 認可サービス | アクセスコントロールリスト(ACL)/権限のCERN実装 | 試験運用 |
| メーリングリスト | Push Notifications Service | メールフィード、情報受信強化のCERN実装 | 導入初期 |
| メール | Kopano | IMAP/POP/SMTP/ActiveSync | 試験運用 |
| カレンダー | Kopano/Indico | 個人カレンダー | 試験運用 |
| コンタクト | Kopano | コンタクト | 試験運用 |
| タスク管理 | Kopano | タスク管理 | 試験運用 |
| 電話 | WebRTC | CERN実装電話アプリ | 試験運用 |
| インスタントメッセージ・チャット | Mattermost | チャットとIM | 実運用中 |
| デスクトップ管理 | 強化されたPC | Windows+AD+GPO+CMF | 実運用中 |
| デスクトップ管理 | Self Sustained Desktops | Windows OEM / Mac / Linux + Application Management (CERN AppStore) | 導入初期 |
| アプリ配布 | CERN AppStore | アプリの管理・カタログ・配布・更新・削除 | 導入初期 |
| Home Directories | OwnCloud | グローバルホームディレクトリの全プラットフォーム向けのCernBox(CERNブランドのOwnCloud) | 実運用中 |
| File Workspaces | EOS | EOSとCERNBox又はSMB/Fuze/Xroot | 実運用中 |
| Antivirus | Another Antivirus | 強化されたPC、defender他の中央管理 | 評価中 |
| Officeアプリ | 代替オフィスアプリ | OpenOffice.org/OnlyOffice/LibreOffice | 評価中 |
| Officeアプリ | CodiMD,Reveal他 | ユースケースに合わせた代替 | 評価中 |
| 描画 | Draw.io | ダイヤグラム、フローチャート、処理ダイヤグラム、ワークフロー | 実運用中 |
| プロジェクト管理 | MicroServices | ユースケースに合わせた代替 | 実運用中 |
| プロジェクト管理 | JIRA Gantt Chart | 中規模プロジェクト管理、ガントチャート | 実運用中 |
| プロジェクト管理 | DHTMLX Gantt Chart Viewer | 小規模プロジェクト管理、ガントチャート | 実運用中 |
| HTMLエディタ | BlueGriffon | HTMLエディタ | 実運用中 |
| ターミナルサービス | Guacamole | 全プラットフォームでのリモートアクセス | 試験運用 |
| Databases | CERN DB OnDemand | Postgres、MariaDB他フェイルオーバーとクラスタ機能追加版 | 実運用中 |
| IIS、DFSホスティング | OpenShift | コンテナベースのホスティングソリューション | 実運用中 |
| CMS | MicroServices | ユースケースに合わせた代替(WordPress、Jekyll、Hugo他) | 評価中 |
| CMS | Wordpress | BlogタイプのサイトはOpenShift上のWordPress | 試験運用 |
| CMS | Jekyll | OpenShift上の静的サイト。Hugoも評価中 | 試験運用 |
| CMS | MkDocs | OpenShift上のドキュメントサイト | 実運用中 |
| CMS | Drupal | CMS機能 | 実運用中 |
| CERN検索 | Elasticsearch | 整備された検索サービス/ElasticSearch/Invenio | 実運用中 |
聞いたことのあるもの、聞いたことのないもの様々ではないでしょうか。
過去にCERNが行っていた開発
なお、CERNは研究機関として有名ですが、ソフトウェア開発でも大変有名で、HTTPとWorld Wide Web発祥の地でもあります。ここではScientific Linuxについてご紹介します。
Scientific Linux(RHEL互換OS)
2018年にIBMに買収されたRedHat。1990年代からLinuxディストリビューションとしてRed Hat Linuxを公開していましたが、現在もリリースされているRed Hat Enterprise Linux(RHEL)をリリースするようになってからはバイナリは売り物として販売する傍ら、ソースを無償公開するというスタンスに切り替わりました。
ソースコードを自分でコンパイルすればRHELと同じ機能のLinuxディストリビューションが作れるので、新バージョンのソースコード公開とともにRedHatの商標を削除してビルドしたLinuxディストロ(RHEL互換OS)を公開する人たちが現れます。CentOSが有名ですが、CERNも米国のフェルミ国立加速器研究所と共同でかつてRHEL互換OSとしてScientific Linuxを公開していました。
2005年2月にRHEL3 Update4をベースにしたScientific Linuxを公開後、RHELのリリースに追随して公開されていましたが、2018年12月にリリースされたScientific Linux 7.6が最終バージョンとなりました。6と7は現在もメンテナンスされていますが、RHEL8以降のバージョンはリリースされないこととなります。
スポンサーリンク
- 私は化学のことは多少わかりますが物理はとんと… [return]
comments powered by Disqus